篠笛工房しのぶえこうぼう 薫風くんぷう 篠笛しのぶえワークショップ

篠笛工房薫風と篠笛ワークショップ

 相模原市緑区鳥屋に店を構える『篠笛工房 薫風』では、格式に縛られない自由な篠笛を提唱し、誰にでも楽しんでもらえる手軽で丈夫で吹きやすく、鳴りや音質に妥協しない安価な篠笛製作を目標にしている。そのためには新しい素材や技法を取り入れることを厭(いと)わず、様々な工夫を惜しみなく投入している。篠笛が庶民の手から自由に生まれた楽器であれば、そこに邪道などと言う指摘はそぐなわず、誰もがそれ程思い切らずに買える価格であることが重要という考えを持っている。
 薫風では工房の工具類を持ち出し、篠笛作りを体験できる出張形式のワークショップを開催しており、車で行ける場所であれば全国どこでも出張の対応をしている。篠笛に使われる素材には唄口が既に加工されていて、参加者は指孔を加工するだけで篠笛が完成する。唄口は音色を大きく作用するに重要な部分で、ここをプロの職人が事前に仕上げることにより、ある程度の指孔が加工できれば、店で販売されている篠笛とほぼ同等の音色が得られるのが最大の利点である。
 ワークショップでは参加者がただ単に指孔を加工するだけでなく、薫風のスタッフが篠笛の吹き方も丁寧に指導してくれる。また、当日の参加者で篠笛の経験者がいれば演奏をお願したり、薫風代表の志村さん自ら演奏を行うこともあり、参加者が楽しむことを最優先に考え、開催される場所に合わせて臨機応変に進行を進めていくのもこのワークショップの魅力の一つである。
 以上の様に薫風のワークショップは大きく分けて@篠笛製作、A奏法指導、B演奏鑑賞の3つのプログラムで構成され、篠笛の初心者だけでなく、ある程度の経験がある方や、プロの演奏家など、どのレベルの人でも楽しめる内容となっている。


開催地情報

 今回の薫風の篠笛ワークショップの主催者は神奈川県平塚市下島の下島太鼓保存会に所属する山梨さんで、平塚市小鍋島にある「城島公民館」の集会室で開催された。城島という名称は近隣の城所の「城」と、大島・小島・小鍋島の「島」を合わせた地区名で、平塚市の北部に位置する。
 城島地区には平塚市内で叩かれている一般的な祭り囃子が伝承されており、伝承では大島・小島・小鍋島の囃子は城所から伝わったとされている。また、城所の囃子は平塚市の北側に隣接する伊勢原市の一部にも伝承されており、かつては周辺の地域に大きな影響を与えるほど、城所の囃子は旺盛を極めていたと推測される。祭礼の時はお互いの太鼓を持ち寄り、太鼓専用の櫓を組んで競り合いをするなど、かつての城島地区の祭礼には活気があったが、時代の流れと共にその様な交流も行われなくなってしまった。
 このような状況で、地元の下島だけでなく近隣の太鼓連も活性化させようという思いから、昨年の令和6年(2024年)に城島地区で第1回目のワークショップを主催し、今回が2回目の開催となる。以下に令和7年(2025年)8月3日(日)に行われた、第2回目のワークショップの様子を紹介する。

第2回目の開催案内第1回目の開催案内

子供の部/唄用・ドレミ調 (開始10:00、終了12:00)

 昨年の第1回目は午前中のみの開催であったが、第2回目は午前と午後の2部に分けて開催した。午前は主に子供を対象とし、唄用(ドレミ調)の篠笛製作がメインである。参加者は事前に唄用か囃子用のどちらの篠笛を製作するかを連絡し、受付で参加費用を支払う。受付では篠笛の吹き方と運指が表記されたプリントを受け取ってから、会場となる集会室へ入る。参加者のほとんどは篠笛経験がないため、篠笛に関する基本的な資料の配布は非常に役に立っている。
 ワークショップは最初に篠笛の基本的な説明から始まり、参加者は指孔以外が仕上がっている篠笛の素材を選び、テンプレートを使って穴位置に印を付ける、次にボール盤で指孔を開け、最後に穴の形を調整し、バリを取って完成となる。完成後はその場で吹くことができ、吹き方が分からない参加者にはスタッフが丁寧に指導を行う。なお、この年はプロの篠笛奏者である福原寛瑞さんが参加していたため、篠笛の演奏を披露してもらった。

開催場所の城島公民館です参加者は受付を済ませます
受付では篠笛の吹き方の解説と運指がもらえます
集会室に入ると唄口だけの素材が並びます
こちらは指孔を開けるボール盤10時になると薫風代表の
志村さんの挨拶でスタート篠笛について丁寧に説明します
続いて主催者の山梨さんの挨拶で作業に移ります
最初に篠笛の素材を選び指孔のテンプレートと一緒に
テーブルに持ち帰ってマジックで穴位置に印を付ける
次の作業はボール盤で指孔を加工していきます
指孔の加工が終わると今度は微調整に入ります
音色を確認して孔を広げていきます
チューニングメーターも使いますこちらはリューターで加工
穴の調整をサポートします削った後はバリを取ります
篠笛は音を出すのが非常に難しい楽器ですので
加工が終わるとスタッフが吹き方を丁寧に指導します
11時30分になると音出しを止めて
参加者の一人である福原流の笛方である福原寛瑞さんを
紹介します。全ての調に対応できる様に沢山の笛を所持
なかなか聞けないプロの生演奏を披露してもらいました
更に、追加でもう一曲披露美しい音色が響き渡ります
多くの拍手が沸き起こりました非常に充実したプルグラムです
ここで一旦終了としますが調整が必要な参加者には
終了時刻まで丁寧に対応作業は12時まで続きます
こちらは寛瑞先生のサイン会午前の部はこれで終了です

大人の部/囃子用・古典調 (開始13:00、終了15:00)

 午後に行われた大人の部は祭り囃子の関係者がメインで、平塚市博物館の館長と祭りばやし研究会のメンバー、および研究会担当の学芸員も参加した。この年は囃子用の太鼓を準備し、祭りばやし保存会による演奏が篠笛入りで披露された。また、平塚市の重要文化財になっている田村ばやしの関係者も参加していたため、田村ばやしの笛も披露された。なお、主催者の説明では来年、第3回目のワークショップを検討しているという事である。

午後の部の受付です午前の部の掃除をします
笛の素材が追加されました薫風の笛を試し吹きできます
13時になると午後の部が開始最初は篠笛の概要を説明
安全面の注意事項も説明主催者の挨拶があり
いよいよ製作スタート席には台と工具とマジック
先ずは篠笛選定から。自分の好みにあった素材を探します
テンプレートを使って指孔の位置に印を付けます
続いてボール盤での穴あけ穴の位置によって
ドリル径が異なります早速吹いてみます
平塚市博物館の館長と祭りばやし研究会の学芸員も参加
穴開けが終わると志村さんから音の出し方を説明します
参加者も一緒に吹いてみます練習の合間にボール盤の片付け
次に平塚市内で一般的に叩かれている祭り太鼓を披露
続いて祭りばやし研究会が篠笛入りで演奏します
主催者の挨拶を挟み指孔の調整加工が始まります
自分で加工が難しい場合はプロがサポートします
囃子太鼓の体験演奏も開催篠笛付きで太鼓が楽しめます
篠笛の吹き方を個別で指導ここで平塚市の重要文化財の
田村囃子の笛を披露曲の解説を挟み
もう一曲披露。生の祭り囃子の笛の演奏に拍手が起こります
篠笛の内側は腐食防止の為に人口漆の塗布がお勧めです
最後に主催者の挨拶がありワークショップは終了です
参加者をお見送り篠笛人口が増えると良いですね

取材を終えて

 私にとって薫風の篠笛ワークショップは昨年の1回目に引き続き2回目の参加で、昨年は参加者の一人として篠笛製作を体験し、今回は薫風代表の志村さんと主催者である平塚市下島の山梨さんに許可を頂いて取材を行った。2回のワークショップを通じて一番感じたことは、志村さんの篠笛製作に掛ける惜しみない努力と、篠笛の普及に対する情熱である。参加者は子供から年配者までと年齢を問わず、篠笛経験の有無に関わらず全ての参加者が楽しめる内容は、まさに志村さんの篠笛に対する姿勢の現れである。
 篠笛に関しては作り手(職人)の減少や近年の物価高の影響を受け、篠笛自体の値段も急騰しており、残念ながら気軽に始められる楽器では無くなってきている。このような状況で、質の良い篠笛を手軽に、しかも安価で入手できる薫風のワークショップの存在は、篠笛の普及に大きく貢献する取り組みだと感じた。
 主催者の山梨さんは地元の下島太鼓保存会で活動する中心メンバーで、地元にはなかった笛を取り入れようと、それまで全く経験のなかった篠笛にも自ら率先して挑戦している。また、それだけに留まらず下島地区の枠を超え、近隣の大島・小鍋島・城所を含んだ城島地区の太鼓連の活性化や、平塚市以外の地区との交流にも積極的に取り組んでいる。
 近年、少子高齢化や財政難により祭り囃子だけでなく、祭りそのものの存続が危ぶまれる地区が多い中、地域の活性化の取り組みとして薫風のワークショップを主催し、篠笛の普及活動に貢献する姿勢からは、薫風の志村さんと同じくらいの熱意を感じるられる。祭り囃子に関わる一人として、今後もこのような活動が広がり、祭り囃子をきっかけに地域の活性化に繋がることを期待いたします。